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Issue No. 34 (May 15, 2025) 血糖値を安定させる食べ方

診療の中でも、プライベートでも、色々な方とお話ししていてよく気づかされるのは、血糖値が慢性的に不安定になっている人が非常に多いという事実です。血糖値が安定していないと、HPA軸(視床下部ー下垂体ー副腎系)と呼ばれるシステムが疲弊し、様々な不調へと繋がっていきます。血糖値を安定させることは、健康の維持回復のためには基本中の基本で、糖尿病や高血圧や心臓病などの予防になることはもちろん、免疫力アップのためにも、自律神経の働きをよくするためにも、慢性炎症や慢性感染をおさえるためにも、PMSや生理痛や更年期障害などホルモンに関する問題を解消するためにも、不安症や気分の浮き沈みをなくすためにも、夏バテ予防のためにも、多忙でストレスの多い時期を元気に乗り切るためにも、とにかくどんなチャレンジにおいても、絶対にまず最初に取り組まねばならないことです。これまでのニュースレターで色々な異なるテーマを取り上げてきましたが、今日は基本中の基本に戻って、血糖値を安定させ、HPA軸を正常に働かせるために必要な条件についてお話しします。


まずは「血糖値」とは何か、簡単におさらいしましょう。血糖値とはその名の通り血液中の糖の量を数値で示したもので、具体的にはブドウ糖という単糖の量を指します。ブドウ糖は体にとって一番使いやすいエネルギー源なので、血糖値は脳と神経と内分泌系と内臓との連携によって、常にある程度一定に保たれています。血糖値が上下する背景にあるメカニズムには色々なものが絡んできますが、一番直接的に血糖値に影響を与えるものは、食べ物です。


肉や魚に多く含まれるタンパク質や脂質は、焚火で例えるならば太い薪にあたり、ゆっくりと燃えるので、長い時間をかけて血糖値を徐々に上げていきます。一方でパンやお米に多く含まれている炭水化物は、焚火にとって新聞紙のようなもので、パッとすぐに火がついて燃え上がるけれど、すぐに小さくなってしまいます。甘いものは、蜂蜜やメープルシロップなどいくら自然なものであっても、まるで着火剤のようにすごい勢いで燃え上がり、血糖値を一気に急上昇させてしまいます。チョコレートや甘いコーヒーなど、カフェインと甘味とのコンビネーションが一番激しく血糖値を上げます。血糖値を急激に上昇させると、数時間後には今度はそれが急降下し、何度かアップダウンを繰り返した後にやっと落ち着いていきます。このアップダウンが、体にとって最悪のストレスとなるのです。


では、血糖値を激しくアップダウンさせない食べ方とは、どんな食べ方なのでしょうか。まず、必ず三度の食事で良質のタンパク質をしっかりと摂ります。 必要とするタンパク質の量や消化力は、一人一人違いますが、目安としては一食で最低でも10~15グラムのタンパク質を摂ることが理想です。 鶏肉でも、牛肉でも、豚肉でも、魚の切り身でも、卵でも、種類は何でも構いません。ここで注意しなければならないのは、肉も魚も豆も、100%がタンパク質ではないという点です。100グラムあたりに含まれるたんぱく質の量は、鶏肉、牛肉、豚肉は15~20グラム、魚介類は20グラム前後、卵は1個当たり約6グラムとなっています。豆も時々は良いですが、植物性の物だけに頼るのはアミノ酸のバランス的にもよくない上、豆によっては糖質が多いものもあり、豆に含まれる酵素阻害物質やフィチン酸も消化の臓器に負担をかけるので、納豆や豆腐など、豆をメインのタンパク質源にする食事は、多くても一週間二~三食までにとどめることをお勧めします。チーズやヨーグルトもタンパク質の含有量は多いですが、市販の乳製品は消化が難しい上、日本のスーパーで売られている乳製品の大半は質が大変低く、はっきり言って「百害あって一利なし」なので、それらをタンパク質源のメインにすることは極力避け、使うとしても時々良質の物を少量にとどめるようにします。アメリカではオーガニックの良質のチーズなどが比較的手軽に手に入るので、消化力が高い人は少々摂っても大丈夫かと思います。


良質の脂質をしっかり摂ることも大切です。脂質は血糖値をゆっくりと上げるだけでなく、満腹感にも貢献するので、栄養価の低いものを無駄にたくさん食べてしまうようなことを防いでくれますし、体の修復や免疫機能には絶対に欠かせません。皮付きの鶏肉や、脂身を多く含む牛や豚や魚も良いですし、脂分が少ない動物性タンパク質を摂る場合は、オリーブ油を調理に使ったり、良質のバターやココナッツオイルを利用したりします。和泉家ではスープや味噌汁にもバターを少し加えることもあります。食事から摂れる脂質が足りない場合は、たらの肝油やMCTオイルをサプリメントで補うのも良いでしょう。


塩や野菜をしっかり摂取することも大変重要です。血糖値が慢性的にぶらついている人は、副腎で作られる水分調整のホルモンの分泌に問題がある場合が多く、塩分や他のミネラルを大量に尿で失う傾向にあります。そのような人が塩分は体に悪いと思って必要以上に制限すると、体への負担がもっと大きくなり、HPA軸が更に疲弊していきます。良質の天然の塩であれば、そこまで塩分の摂りすぎを気にする必要はないので、良質の塩で「美味しい!」と感じるくらいにしっかりと味付けし、野菜も意識して毎食たくさん摂るようにしましょう。


糖質は、減量中、もしくはケトジェニックダイエットなど特殊な食事法を実践している場合を除いては、完全に除去する必要はありません。ただし、糖質のみ、もしくは糖質がメインの食事は絶対に避け、必ず毎食タンパク質と脂質をしっかり摂るようにします。市販のパンや麺類は、小麦に含まれるグルテンや押出形成という加工法が消化に負担をかける上、グリホサートの問題も深刻なので、できるだけ避けた方が無難です。白米は少量であれば摂っても構いませんが、穀物だけに頼らず、里芋、サツマイモ、カボチャなどのイモ類を糖質減にすると、栄養バランスがより良くなります。血糖値を何よりも激しく上げる甘いお菓子、チョコレート、甘い飲み物、甘い味付けの食事などは、極力省かなければなりません


HPA軸が弱っている人は、長時間空腹になることは避け、朝は起床後できるだけ早く朝ごはんを食べる必要があります。食事と食事の間が何時間もある場合には、タンパク質や脂質を少し間食として摂るようにします。消化が弱っていて、一度にたくさん食べられない人は、一日の食事を3回ではなく5-6回に分けて摂ると良いです。朝一に空腹の状態で運動したり、朝食を抜くインターミテントファースティングには、色々な利点がありますが、HPA軸に負担をかけるため、HPA軸が弱っている人には向きません。まずは血糖値を安定させ、HPA軸を元気にすることが先決になります。


HPA軸が元気になると、朝はスッキリ起きられ、カフェインに頼らなくてもエネルギーが一日自足でき、甘いものやアルコールをやたらと欲することもなく、夕方イライラしたりマイナス思考になったり眠くなったりすることもなく、夜まで元気に活動することができて、ぐっすり眠れます。ホルモンに気分や体調を左右されることもなくなります。これが本来「当たり前」の人間の姿です。疲れがたまりやすくなるのは、年だけのせいではありません。HPA軸が疲弊しているサインであり、それは改善できることなのです。


現代の忙しい日本人の朝食といったら、パンとコーヒーだけ、アメリカにお住いであればシリアルに牛乳、という方も多いのではないでしょうか。しかし、それでは体も頭も100%の力を出すことができません。日本の典型的な朝食、と言えば、ご飯、味噌汁(伝統的なやり方でダシをとったもの)、焼き魚、納豆、海苔、漬物…という感じですが、それがいかにタンパク質、塩分、ミネラルを豊富に含む素晴らしい食事であったかに気づかされると思います。そこまで品数をそろえるのは大変ですが、例えば野菜をたくさん入れた作り置きの味噌汁かスープに、前日の残り物の肉か魚、というような朝食にするだけで、人によっては日中のエネルギーがそれまでと全く違ってくることもあります。


タンパク質と脂質が血糖値を安定させる鍵になるわけですが、それを消化するだけの力が胃腸にない人は、まずは消化酵素を利用してください。血糖値のアップダウンはビタミンBを激しく消耗するので、HPA軸回復の手助けになる良質のB群サプリメントもお勧めです。



 
 
 

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