top of page
検索

No. 40 (November 22, 2025) 正しい脂質の摂り方

脂質は、三大栄養素の一つでありながら、何かと悪者扱いされることが多い栄養素です。あぶらと言ったら、太る、血液をドロドロにする、心臓に悪い、中性脂肪やコレステロールの値を上げる、といったような悪い印象が一般的ではないでしょうか。しかし、細胞ひとつひとつを覆う細胞膜の材料の半分は脂質であり、細胞膜が細胞の外と中を隔てる壁として機能することを可能にしていますし、特に脳は6割もが脂質でできているので、赤ちゃんが飲む母乳には脂質がたくさん含まれています。食欲をコントロールするレプチン、ストレスホルモン、性ホルモンなどは、あぶらが原材料になっています。このように、私達の体にとってとても重要な役割を果たしている脂質ですが、体に害になる場合も多いので、正しい種類の脂質を、正しい摂り方で接種することが非常に大切になります。


正しい脂質の摂り方の説明に入る前に、まず理解しなくてはならないことは、必ずしも脂質の摂取が、中性脂肪や血中コレステロールの値上昇の直接的な原因になるというわけではない、という事実です。あぶらは見るからにドロドロしていますが、それがそのまま体に吸収されるわけではもちろんなく、消化の臓器で細かく分解されてから体内に入ります。大抵の場合、中性脂肪や高コレステロール血症の背景には、糖質の過剰摂取や、体内での慢性的な炎症があります。そもそもコレステロールの大半は、食べ物から入ってくるのではなく、体の需要に対応するために肝臓で作られています。例えばストレスが多い時、そのストレスに対応するために、ストレスホルモンの原材料であるコレステロールがたくさん生成されます。脳に障害が起きた時や、怪我や炎症などでたくさんの細胞を新生もしくは修復しなくてはならない時も、大量の脂質が必要になるので、コレステロール値が高くなります。単に脂質の摂取量を制限することで血液検査の結果が改善される、というような単純なケースばかりではないのです。


では、脂質はどのように摂取することが望ましいのでしょうか。


まず、何よりも大切なのは、悪いあぶらを避けることです。一番悪いのは、トランス脂肪酸。血管内で炎症を起こし、動脈硬化を促進し、インスリン抵抗性を悪化させ、心血管疾患のリスクを上げます。トランス脂肪酸は、室温で液体である植物油に手を加えて、無理やり固くしたもので、マーガリンやショートニングなどに多く含まれ、安価であること、日持ちがよいこと、サクサク、もしくはふんわりした食感を出すことなどの理由から、パン、お菓子、加工食品、ファーストフードの揚げ物などに頻繁に使われています。アメリカでは人工的に作られたトランス脂肪酸は2021年より禁止されていますが、日本では全く規制が行われていません。


次に悪いのが、菜種、大豆、ヒマワリ、綿など、種から作られているシードオイルです。マーガリンやショートニングは、たいていシードオイルから作られています。日本で一般的に「サラダ油」と呼ばれる油は、シードオイルの中でも精製度の高く、冷やしても固まらないのでサラダなどにかけて使えるものを指します。日本で昔から使われているごま油や菜種油は、伝統的な自然なやり方で圧搾され、精製度が低いのでクセが強いものの栄養価が高いですが、現代のスーパーで一般的に売られているシードオイルは、高熱、高圧、溶剤を用いて無理矢理絞り出したもので、製造の過程で脱臭剤や漂白剤なども使用されている上、オメガ6と呼ばれる炎症促進性が高い種類の脂肪酸を多く含むので、慢性性炎症を起こす最悪のあぶらとなっています。しかし(化学薬品のおかげで)無臭で味にもクセがなく値段も安いので、ドレッシングやマヨネーズなどにはもちろん、あぶらが使われている加工食品にはたいてい入っています。


慢性炎症は、血管の内壁を傷つけ、心疾患や脳卒中などのリスクを上げるだけではなく、インスリン抵抗性を作り、脳神経や免疫機能にも影響を与え、癌のリスクを上げ、老化を加速させます。現代人の健康問題は、それらの悪いあぶらの過剰摂取によるところと深く関係しているのです。トランス脂肪酸も、シードオイルも、外で買う食べ物ほぼ全部に入っていると思って間違いはありません。これらは摂らないに越したことはないので、食事は原材料を選んで自炊することが最も安全です。では、どんなあぶらを、どのように使うのが良いのでしょうか。


サラダにかけるなどしてあぶらをそのまま摂る場合には、低温圧搾のオリーブ油が適しています。オリーブ油は種からではなく実の部分を絞って油を採るので、低温で圧搾することが可能で、栄養価も高く、オメガ6の脂肪酸の含有量も少ないので、抗炎症効果が高い油と言えます。アメリカにお住まいの方は、レストランでサラダを食べる場合には、ドレッシングの代わりにオリーブ油と塩やビネガーを注文すると良いでしょう。あぶらは熱するとどうしても酸化してしまいますが、オリーブ油は他のシードオイルに比べると酸化しにくいので、焼いたり炒めたりする際に少量を使う分には通常は問題ありません。ココナッツオイルやギー(精製バターオイル)も安定したあぶらなので、風味が気にならなければ調理に適しています。ラードやタローなどの動物性あぶらを調理に時々使うのも良いですが、摂り過ぎには要注意です。どんな安定したあぶらでも高温で調理するとかなり酸化が進むので、焼いたり炒めたり揚げたりはできるだけ控えるのがベストですが、時々揚げ物などをする場合は、シードオイルは絶対に使わず、オリーブ油やココナッツオイルやギーを使い、濾して繰り返し使うようなことは避けましょう。


オメガ3という脂肪酸は、特に抗炎症効果が高いことがわかっており、オメガ3とオメガ6の摂取量の比率は1:2~1:4が理想だと言われています。しかし、シードオイルを常用していたり、加工食品を食べることや外食が多い現代人は、摂るあぶらのほとんどがオメガ6で、オメガ3はほとんど摂らないので、実際の摂取の比率は1:10~1:20になっています。魚はオメガ3を多く含むので、意識して魚を食事に取り入れることも良いですし、サプリメントとしてフィッシュオイル(タラの肝油がおススメ)を摂ったり、サラダや炒め物に亜麻仁油や荏胡麻油を少量ふりかけて食べることも良いです。オメガ3の脂肪酸は熱に大変弱いので、加熱は必ず避けてください。動物性あぶらに含まれるオメガのバランスは、餌や育った環境などによっても違ってきます。例えば草食で広い牧場でのびのびと育った牛のバターには、そうでない牛のバターに比べて、オメガ3の脂肪酸を多く含み、オメガ3とオメガ6の比率も悪くないことがわかっています。やはり自然であればあるほど、栄養価も高いことがわかりますね。


ただ良質のあぶらを摂ればよいのかというと、そうではありません。あぶらと砂糖をたくさん一緒に摂ることは、炎症を促進しますし、そもそも胃酸がしっかり出ていなかったり、胆汁の流れが悪かったりして、あぶらの消化がうまくいっていない場合は、例え摂るあぶらの質は最高だったとしても、あぶらの消化不良が腸内環境を悪化させ、リーキーガットを起こし、体全体に大きな負担をかけることになります。肉やあぶら物が苦手と感じている方は、食前に消化酵素を摂ることをお勧めします。


これからアメリカはサンクスギビング、クリスマス、ニューイヤーと、ご馳走を食べる機会が続きます。できる限り家で調理し、この時期をヘルシーに乗り越えたいと思っています。


ree

 
 
 

コメント


Copyright © Dr. Izumi, Mind, Body, Spirit. All Rights Reserved.

bottom of page