前回は「ホルモン過多」についてお話しました。今回は「ホルモン不足」についてお話します。
ホルモンの分泌量が減ることが原因で起きる問題で一番わかりやすいのが、女性の更年期の症状でしょう。男性でも、男性ホルモンが減少してくると、性機能の減退だけでなく、やる気が出なかったり、落ち込みがちになったり、筋肉量の低下、不眠、集中できないなどの症状を感じる人もいます。このような男性の更年期障害のような症状は、一般的に「アンドロポーズ」と呼ばれています。
加齢に伴い、女性であれば卵巣からの女性ホルモンの分泌量が減少し閉経へと向かい、男性であれば精巣からの男性ホルモンの分泌量が減っていくことは人間にとって自然な流れですが、実は女性ホルモンや男性ホルモンは「副腎」という臓器からも(少量ではありますが)分泌されています。なので、更年期の時期に入り卵巣や精巣で作られる性ホルモンの量が減少していっても、副腎の機能に余裕がある人の場合は、副腎が補充してくれるおかげで体内の性ホルモンの量が一気に急降下するということを防ぐことができます。しかし、副腎の助けを得られない人は急降下を避けられません。女性ホルモンの量が急降下すると、脳の視床下部という部分が一生懸命「女性ホルモンを分泌せよ!」と信号を送ります。しかし副腎が別の業務で大忙しになっていると、女性ホルモン生成にエネルギーとリソースを費やすことができないので、視床下部からの指令を無視せざるを得ない状態になります。すると信号がどんどん強くなるわけですが、視床下部は体温や発汗の調節なども担っているので、それらの機能にも影響が出ます。これがホットフラッシュです。副腎が頑張れる人は、さほどホットフラッシュなどを経験せずに閉経を迎えることができます。これが、更年期障害と呼ばれるような症状が酷い人とそうでない人がいる理由のひとつなのです。
では、副腎に余裕を持たせるためにはどうしたらよいのでしょうか。副腎が生成するホルモンには数種類あり、その中の「コルチゾール」や「アドレナリン」は「ストレスホルモン」という別名の通り、何らかのストレスがあるとたくさん分泌され、血圧や心拍数や血糖値を上げて体の戦闘態勢を整え、ストレスに対応しようとします。副腎はストレスがあればあるほど忙しくなるので、ストレスを軽減させることが副腎に余裕を持たせることに繋がります。
また、コルチゾールはストレスに対応するホルモンであると同時に、低血糖に対応するホルモンでもあります。血糖値が下がり過ぎるとコルチゾールが分泌され、血糖値を上げるのです。長時間空腹でいることや食べる量が少ないことも当然低血糖を招きますが、甘い物を食べて血糖値が急上昇した場合、体は必至で大量にインスリンを分泌するので、その反動で今度は血糖値が下がり過ぎる、という現象が起きます。そこでたくさん分泌されるのがコルチゾールです。タンパク質やあぶらは焚火で例えると太い薪のようなものなので、血糖値を急激に上げるということはしませんが、ご飯、パン、イモ類などの炭水化物、甘い果物、甘いお菓子などは、新聞紙みたいなものなので、すぐに燃えて一気に血糖値を上げ、高血糖→インスリンの大量分泌→低血糖→コルチゾールの大量分泌→高血糖、というアップダウンを何度か繰り返してからやっと落ち着きます。痩せてはいるけれど筋肉が少なく、肉や魚などの摂取量が少ない人も、血糖値を保つための資源に余裕がないので低血糖に陥りやすく、そうなると甘い物を無性に欲して食べてしまい、一日中血糖値が急降下と急上昇を繰り返すというようなパターンに陥りがちです。血糖値を激しく上下させる食べ方は、大量のコルチゾール分泌を副腎に強いるので、副腎の負担を軽減させるためには血糖値を安定させなくてはならないのです。
コルチゾールの大量分泌が性ホルモン不足に繋がるもう一つの理由に、両方のホルモンが同じ原材料から作られているという事実があります。 体はストレス全てを命を脅かす緊急事態とみなすので、生殖機能よりもストレス対応が優先されます。 性ホルモンもコルチゾールも、コレステロールが原材料になっているので、体がたくさんコルチゾールを必要とするような状態が続くと、コレステロールはみんなコルチゾール生成の方に回されてしまい、性ホルモンはほとんど生成されなくなってしまうのです。ストレスが生理不順を招くことがあることは恐らく皆さんも聞いたことがあると思います。コルチゾールの出過ぎは更年期の問題だけでなく、若い人のホルモンバランスにも大きな影響を及ぼします。今日本でもアメリカでも不妊の女性が増えていることも、同じメカニズムが原因の一つであると考えられています。また、血糖値のぶらつきはインスリン抵抗を作る原因となり、糖尿病予備軍の体質を作っていきますが、今不妊の一番の原因になっているとも言われているPCOSにもインスリン抵抗性やコルチゾールの出過ぎが関係しています。どの角度から見ても、血糖値を安定させることは性ホルモンバランスにとってとても大切なのです。
まとめると、「ホルモン不足」の問題を防ぎ改善させるには、ストレス軽減と血糖値の安定が鍵になります。「ストレス」という言葉を聞くとたいていの人は精神的ストレスを思い浮かべますが、過度の肉体労働、運動不足、睡眠不足、化学物質、栄養不足、そして血糖値の激しい上下も、体にとって負担になる物全は体にとってストレスです。種類は何であっても、体は全てのストレスに対して同じ対応をします。精神的ストレスだけでなく、ライフスタイル全体を見直して整えていくことが、性ホルモンの変動に振り回されないためにとても重要なのです。
ちなみに、「ホルモン過多」のタイプであれば「ホルモン不足」の問題は出にくいかというと、決してそうではなく、実は「ホルモン過多」の問題がある人(肝臓や消化に問題がある人)ほど、「ホルモン不足」(ストレスや血糖値の問題)の問題が出やすいのです。血糖値がぶらつきやすい人は、そもそも消化が弱くタンパク質や脂質の消化が苦手なので、どうしても甘党になり、エネルギー源を糖質に頼ってしまいます。肝臓をいたわるにしても、副腎をいたわるにしても、消化力が基本中の基本になります。
全ては繋がっています。日本人は痩せてはいるけれど、筋肉量が少なく、栄養不足でたくさんの不調を抱え、決して健康とは言えない人がたくさんいます。体だけでなく、心を病んでしまっている日本人も年々増えています。見かけ重視でただ痩せることに躍起になるのではなく、きちんと体の声を聞いて、健康な体を作ることに投資し、日本を良くして行ける若者が増えて行くことを強く願います。
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